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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)2428号 判決 1984年4月23日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金五三二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外荒井清は米沢市門東町三丁目九七一番地「荒岩ビル米沢」鉄骨造陸屋根二階建(以下本件建物という)の一階部分を訴外株式会社みなとやに、二階部分を訴外霜柿清美に賃貸した後、被告との間で、本件建物につき被告を権利者とする根抵当権設定契約を結びその登記を了した。

2  昭和五四年四月一九日原告は荒井清から本件建物を買い受け株式会社みなとや及び霜柿清美に対する賃貸人の地位を承継した。

3  その後、被告は根抵当権の実行を申し立て、昭和五七年一一月三〇日、不動産競売開始決定を得て本件建物を差押え、さらに、根抵当権の物上代位に基づいて株式会社みなとやが山形地方法務局に供託していた昭和五七年一一月から昭和五八年七月分までの賃料金四〇五万円及び霜柿清美が供託していた賃料金一二七万八、〇〇〇円に対する原告の還付請求債権について、それぞれ昭和五七年七月一九日及び同年七月二二日に差押え転付命令を得てこれを取得した。

4  しかし、被告の根抵当権は使用収益権限のない非占有担保権であるから、目的物利用の対価である本件供託金還付請求権に物上代位することはできない。

なお、被告は本件建物の競売代金について配当加入したうえ、更に賃料について物上代位権を行使しようとしている。

しかし、物上代位権は目的物に対して担保権を行使できなくなったとき、その価値代価物について行使できる権利であるから、仮に、賃料について物上代位できると解釈する立場にたつとしても、本件における賃料に対する物上代位は不当である。従って、被告が前記物上代位によって取得した金五三二万八、〇〇〇円は法律上の原因を欠くものである。

よって原告は被告に対し不当利得返還請求権に基づき右金五三二万八、〇〇〇円及びこれに対する被告への訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  請求原因3の事実のうち、被告が根抵当権実行を申立て、昭和五七年一一月三〇日に不動産競売開始決定を得て、本件建物を差押えた事実は否認しその余は認める。本件建物について根抵当権実行を申立て、競売開始決定を得て差押えたのは被告の先順位抵当権者である訴外株式会社ローンサービスである。

3  請求原因4の事実は争う。

第三  証拠関係(省略)

理由

一  請求原因1、2項の事実及び3項の事実のうち、被告が、株式会社みなとやにおいて山形法務局に供託していた昭和五七年一一月から昭和五八年七月分までの賃料金四〇五万円及び霜柿清美が同じく供託していた賃料金一二七万八、〇〇〇円に対する原告の還付請求権につき、それぞれ差押え転付命令を得たことはいずれも当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一号証によると、本件建物に対する被告の先順位抵当権者である訴外株式会社住宅ホームローンの申立により、昭和五七年一一月三〇日競売開始決定がなされ、これに基づき競売手続がすすめられたことが認められる。

二  そこで、次に被告の根抵当権の効力が、その物上代位性からして前記供託金還付請求権に及ぶかどうかについて検討するに、民法三〇四条、三七二条による根抵当権の物上代位性は目的不動産が賃貸された場合の賃料請求権、さらにはそれが供託されたことによる供託金還付請求権にも及ぶと解すべきである(最判昭和四五年七月一六日判決参照)。

たしかに、抵当権は原告の主張するとおり目的物の使用収益権を有しない非占有担保権であるが、その賃料請求権も抵当権によって把握されている交換価値の一変形であることは否定できないし、抵当権者が目的不動産の換価によって被担保債権の満足をえることができないときも抵当権の効力がこれに及ばないとすることは、抵当権の効力を著しく弱めることになるのであって、抵当権の物上代位が賃料請求権に及ぶのが、目的物の滅失毀損した場合に限定されるべき理由はない。

なお、原告は、被告が本件建物の競売代金について配当加入している旨主張するが、被告が右配当手続において配当を受けたことを認めるべき証拠はないところである。

三  以上のとおりであって、被告の取得した供託金については、法律上の原因が存するのであるから、原告の請求は理由がないというべく、そこでこれを失当として棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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